日本の化学・素材メーカーのMI活用事例11選|材料開発と推進体制

著者:R&D Compass編集部|資料確認日:2026年10月24日

この記事で学べること

  • 日本の化学・素材メーカー11社が、MIをどのような材料・開発課題に使っているか
  • 材料候補の探索、配合設計、計算の高速化が、研究開発の判断にどう役立つか
  • 積水化学のRASINや三菱ケミカルグループのMI Bridgeなど、研究者の活用を支える仕組み
  • 企業事例を参考に、自社のテーマ・データ・人材育成を考えるための着眼点

「材料開発にAIを使う」と聞いたとき、知りたいのは、実際にどんな材料を開発でき、研究者の仕事がどう変わるかではないでしょうか。日本企業の公開事例を見ると、触媒候補の絞り込み、樹脂の性能両立、ゴムの配合探索に加え、現場研究者が自分で解析できる環境づくりまで、MIの使い方は多様です。

本記事では、化学・素材分野を中心とした11社を、連結売上高の大きい順に紹介します。各社の開発課題、活用方法、成果・進捗を具体的に整理し、最後に、そこから得られるMI推進の着眼点をまとめます。

MIは材料開発のどこに価値を生むのか

マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics、MI)は、材料に関するデータと統計・機械学習などを組み合わせ、材料の理解や設計、探索を進める取り組みです。企業では実験データを学習する方法に加え、計算科学やシミュレーションと組み合わせる方法も使われています。

基本となるのは、「材料や条件から性能を予測する」ことと、「欲しい性能から材料や条件の候補を探す」ことです。後者を逆解析・逆設計と呼びます。たとえば樹脂の配合と耐熱性の関係を学べば、次に試す配合候補を絞れます。実験は、候補を評価し、新しいデータを得て、予測を更新する役割を担います。

材料開発の問いと、MIで支援できる判断
開発の問い 主な使い方 得られる価値
次にどの材料を試すか 物性予測・候補の順位付け 有望な候補へ実験資源を配分する
複数の性能をどう両立するか 配合・組成・条件の探索 性能間のバランスを考えて候補を選ぶ
材料の振る舞いをどう理解するか 計算データと実験の比較・解析 構造や反応に基づく設計指針を得る
解析をどう研究現場へ広げるか 共通ツール・教育・専門家支援 研究者が日々の判断にデータを使える

MIの基本的な進め方は、マテリアルズ・インフォマティクスとは?で詳しく説明しています。ここからは企業の具体例を見ていきましょう。

掲載する11社と売上高順の一覧

掲載順は、以下の対象決算における各社・グループの連結売上高または売上収益に基づきます。3月決算は2026年3月期、12月決算は2025年12月期です。金額は億円単位に丸めています。

掲載11社の連結売上高・売上収益と主な紹介テーマ
掲載順 企業・集計範囲 売上高等(億円) 対象決算 主な紹介テーマ
1 ENEOSホールディングス 117,655[1] 2026年3月期 触媒探索・AIシミュレーション
2 三菱ケミカルグループ 37,040[2] 2026年3月期 MI Bridge・研究者と専門家の協働
3 旭化成 30,745[3] 2026年3月期 IFX-Hub・現場への展開
4 東レ 25,851[4] 2026年3月期 CFRP向け樹脂の性能両立
5 住友化学 23,285[5] 2026年3月期 材料候補の探索・全社の支援体制
6 花王 16,886[6] 2025年12月期 界面活性剤・触媒・処方設計
7 三井化学 16,688[7] 2026年3月期 再生プラスチックの品質安定化
8 レゾナック・ホールディングス 13,471[8] 2025年12月期 実践型人材育成・半導体材料
9 積水化学工業 13,093[9] 2026年3月期 RASIN・教育・専門家支援
10 住友ゴム工業 12,071[10] 2025年12月期 タイヤ材料の配合予測
11 JSR 4,407[11] 2026年3月期 高分子の記述子・データベース

売上高は事業全体の規模を示し、MIの活用度や成果の順位とは別の指標です。ENEOSの取り組みは主にENEOS株式会社、レゾナックの取り組みは主にレゾナック株式会社の事例を扱い、売上高はそれぞれ持株会社の連結値を掲載しています。各対象決算の通期発表資料・公式企業情報を基準とし、会計上の非継続事業の扱いは各資料に従っています。

日本企業11社のMI活用事例

1.ENEOS|AIとシミュレーションで触媒・潤滑油の設計を進める

ENEOSは、実験・シミュレーション・AIを組み合わせ、触媒や機能性材料、潤滑油などの開発を進めています。代表的な基盤が、Preferred Networksと開発した汎用原子レベルシミュレータ「Matlantis」です。公式研究紹介には、メタノール合成触媒やグリースの設計例が掲載されています。[12]

Matlantisのコア技術に関する2022年の原著論文は、多様な元素の組み合わせを扱うニューラルネットワークポテンシャルを報告しています。原子の配置からエネルギーや力を推定するモデルを、材料シミュレーションへ組み込む考え方です。[25]

メタノール合成触媒の探索について、ENEOSは、従来のシミュレーションで数年かかる計算を数週間で完了し、提案した触媒の性能を実験で確認したと紹介しています。ここでの短縮対象は、候補を調べる計算です。[12]

着眼点は、候補の探索範囲を広げることと、実験で確かめる候補を選ぶことの接続です。 計算の高速化は、組成や表面構造の選択肢を増やします。材料研究者は、その中から合成可能性や使用条件も考慮して、次の検証候補を決められます。

2.三菱ケミカルグループ|MI Bridgeで研究者とデータサイエンティストをつなぐ

三菱ケミカルグループは、2023年9月25日、データ活用アプリケーション「MCG Intelligence Bridge(MI Bridge)」の開発を発表しました。材料や事業を熟知した研究者と、解析を担うデータサイエンティストが協働するための環境です。[13]

データサイエンティストが適切なデータ処理や機械学習アルゴリズムを組み込み、研究者は実験データの登録・検索、推論、逆解析を実施します。材料設計に必要な知見を共有し、顧客への提案を速めることを目指す仕組みです。[13]

材料開発では、何を予測するか、どの性能を優先するか、どの条件まで製造できるかを材料・事業側が判断します。一方、解析側はデータの処理やモデルの検証を担います。共通のアプリケーションは、その受け渡しを具体化できます。

この事例から学べるのは、研究者と専門家の知識を一つの業務の流れへ組み込む設計です。 解析結果を受け取る場だけでなく、データを登録し、検索し、次の設計へ使う場まで整えることが、継続的な活用につながります。

3.旭化成|IFX-Hubを通じて現場研究者のMI活用を支える

旭化成は、MIによる材料設計・性能予測を研究開発DXの中核に位置付けています。公式のソリューション紹介では、「IFX-Hub」などの実践環境を通じ、DX専門部隊に加えて現場研究者がMIを活用できる体制を整えていると説明しています。[14]

また、MI・シミュレーション・実験自動化を統合するスマートラボも紹介されています。材料設計から合成・評価までの流れをデータでつなぎ、得られた結果を次の探索へ生かす方向です。[14]

材料や実験条件をよく知る研究者が解析を試せると、説明変数の意味を確かめたり、新たな仮説を比較したりする機会が増えます。専門家は、難しい解析や検証の設計を支援しながら、より多くのテーマに関われます。

着眼点は、解析を試せる環境と、研究者の判断を結び付けることです。 日常の業務で使うには、入力するデータ、得られる出力、次に取る行動までが分かる構成が役立ちます。こうした使い方を具体化することが、MIを研究現場へ広げる一歩になります。

4.東レ|難燃性と力学特性を両立するCFRP向け樹脂を設計する

東レは2021年11月30日、MIを活用し、優れた難燃性と力学特性を持つ航空機用途向けCFRPを短期間で開発したと発表しました。CFRPは炭素繊維強化プラスチックで、繊維と、それを固める樹脂の組み合わせが性能を左右します。[15]

同発表では、東北大学との共同研究で導入した自己組織化マップを逆問題解析に利用し、複数の材料群から目的の特性を実現する組み合わせを抽出したと説明しています。少ない実験回数でマトリックス樹脂を設計し、プリプレグの開発へつなげた事例です。[15]

自己組織化マップは、多くの特徴を持つデータを、似たもの同士の関係が見える地図のように整理する手法です。材料の組み合わせと性能の関係を眺めることで、狙う特性に近い候補を考えられます。

価値は、複数の要求を同時に考えた材料設計にあります。 難燃性、強度、加工性などを併せて扱う課題では、性能の関係を可視化し、優先順位を決め、実験候補へ落とし込む進め方が参考になります。

5.住友化学|材料探索と全社のデジタル支援体制を組み合わせる

住友化学の2024年3月12日のDX戦略説明資料では、MIを活用した半導体材料の仮想スクリーニングなどが紹介されています。候補を計算機上で調べ、実験対象を絞ることで、開発を効率化する取り組みです。[16]

同資料では、経営層、コーポレート部門、事業部門が連携するDXの全社構造も示されています。専門組織の役割として、材料開発・プロセス最適化の支援、データベースや解析ツールの整備、データ解析人材の育成を挙げています。[16]

この組み合わせは、個々の材料テーマを進めながら、次のテーマでも使える技術やデータを蓄積する形として読めます。新しい課題に着手するたびに、解析環境や教育を最初から準備する負担を減らせる点が魅力です。

参考になるのは、テーマの成果と共通基盤の整備を並行して進める考え方です。 事業部門が開発上の価値を定め、専門組織がデータ・モデル・教育を支える役割分担を整理すると、MIの投資対象も明確になります。

6.花王|長年の研究データを界面活性剤・触媒・処方の開発へ生かす

花王は、MIを用いた高活性触媒の開発や、高洗浄性を持つ界面活性剤の組み合わせの提案を公式に紹介しています。機能性素材、産業用薬剤、衣料用洗剤などで長年蓄積した研究データを、材料・処方開発へ活用する取り組みです。[17]

処方とは、複数の成分をどの種類・量で組み合わせるかという設計です。洗浄力に加え、安定性や使いやすさなどを考えるため、成分ごとの性能と、混ぜたときの振る舞いの両方が重要になります。

花王は、大学・企業との共同研究や、独自のデータサイエンス教育プログラムにも取り組んでいると説明しています。蓄積データ、材料・製品の専門知識、解析技術を組み合わせる構図です。[17]

着眼点は、既存の研究蓄積から、新しい組み合わせを考えることです。 過去の処方と評価結果を整理する際には、配合だけでなく、調製手順や評価条件も一緒に扱うと、性能差の意味を読み取りやすくなります。新しい実験の設計と、過去データの再利用を同時に考えられる事例です。

7.三井化学|再生プラスチックの品質安定化へMIを展開する

三井化学、萩原工業、丸喜産業、NECは2025年10月7日、MIを用いて再生プラスチックの品質安定化と製造工程の効率化を進める協業を発表しました。再生原料は量や質が変動するため、粘度などをそろえるための配合調整が課題になります。[18]

協業では、三井化学と萩原工業が共同開発した粘度均一化装置と、丸喜産業の工場で得られる粘度データ、NECのMI技術を組み合わせます。材料の投入量を調整し、品質を安定させる技術の実証を進める計画です。[18]

同発表では、タンブリングと呼ぶ混合工程の省略により、製造全体の所要時間を従来比25%削減することを目標に掲げています。材料と工程が一体になった開発テーマとして読むと、MIが支援する範囲を捉えやすくなります。[18]

価値は、原料の変動を前提に品質をつくり込むことです。 新材料の発見に加え、手元にある原料を安定して使うための配合・条件選択にも、データを生かせます。この接点を詳しく学ぶには、プロセスインフォマティクスの基礎も役立ちます。

8.レゾナック|実務テーマを通じた人材育成と社外協業を進める

レゾナックについては、実践型の人材育成と材料開発の協業を合わせて見ると、推進方法が分かります。Enthoughtの2024年8月20日の発表では、レゾナックがMI Acceleration Programの活用を拡大し、研究者が課題設定、試作アプリの開発、成果説明まで経験したと紹介されています。[19]

取り組みの例には、材料設計を支援する予測モデル、論文から高分子物性データを抽出する処理、機械学習で加速する計算化学などがあります。学んだ技術を業務の道具へ変える教育として注目できます。[19]

また、2023年9月22日の公式発表では、Matmerizeとの戦略的提携を通じ、AIを使った高分子インフォマティクス技術で、6G向け半導体材料の開発加速を目指す方針を示しています。[20]

着眼点は、自社で課題を定める力を育てながら、外部の専門技術を取り入れることです。 研修の到達目標を「自分のテーマをデータで説明し、解析を試し、次の実験を提案する」と具体化すると、教育と材料開発のつながりを考えやすくなります。

9.積水化学工業|RASIN・教育・専門家支援で研究者自身の活用を広げる

積水化学工業は2024年12月20日、独自MIアプリ「RASIN」の正式運用開始を発表しました。専門部署が蓄積した解析ノウハウを、研究開発者が現場で使える形へ展開する取り組みです。[21]

RASINは、プログラミング技術が不要な、完全内製のノーコードアプリとして紹介されています。公式発表は、フィルム、複合材料、触媒などの領域で培った開発手法を、研究者がすぐ活用できる点を特徴に挙げています。[21]

さらに、アプリを使ってMIの理論と実践を学ぶ教育プログラムと、解析結果や改善方法を専門家に相談できる支援体制を組み合わせています。「使う道具」「学ぶ機会」「相談する相手」を一緒に整える設計です。[21]

材料探索の具体例としては、2022年に、明治大学の金子研究室とMIを活用したエレクトロニクス分野向け新規高分子系材料の探索を開始したと発表しています。社内での活用拡大と、外部研究者との高度な探索を合わせて見ることができます。[22]

この事例から得られる着眼点は、専門家の知識を、研究者が実践できる手順へ変えることです。 専門部署の支援と、研究者自身による解析を組み合わせることで、テーマの難易度に応じた使い方を考えられます。教育後に自分のデータで試し、結果を議論できる場を設けることも、導入時の参考になります。

10.住友ゴム工業|材料配合の組み合わせ探索と研究者の知識を結び付ける

住友ゴム工業とNECは2025年11月26日、タイヤ材料の配合予測と新材料探索に関する先行実証の成果を発表しました。配合予測では、過去の実験データから素材の種類・量と材料特性の関係を抽出し、目標特性を満たす候補を探索しています。[23]

探索に用いた疑似量子アニーリングは、量子コンピュータの仕組みを模倣し、通常のコンピュータで複雑な組み合わせ最適化を解く技術です。同実証では、目標特性項目の90%以上を満たす配合案を導出し、非熟練者が同等の配合案を導出する時間との比較で約95%短縮したと報告しています。[23]

もう一つの実証では、材料開発者の思考や暗黙知を取り入れたAIエージェントが、公開文献から候補材料を探す取り組みも紹介されています。予測モデルによる配合探索と、文献から知識を集める探索を組み合わせる方向です。[23]

着眼点は、数多くの候補を扱う計算と、何を良い材料とみなすかという専門知識の接続です。 比較する時間も「配合案の導出」と明確にすると、実験・評価を含む開発工程のどこに効果があるかを具体的に考えられます。

11.JSR|化学的に意味のある記述子を高分子の予測へつなぐ

JSRの研究者が参加した原著論文「CopDDB」は、共重合体を機械学習で扱うための記述子データベースを報告しています。論文は2024年11月にオンライン公開され、Digital Discoveryの2025年巻に掲載されています。[24]

記述子とは、分子や反応の特徴を数値で表したものです。同研究では、50種類のモノマーに由来する2,500組のラジカル・モノマー対について、反応エネルギーや活性化障壁などを計算し、24種類の記述子を整備しました。[24]

これらを用い、反応性比、モノマー転化率、共重合体の組成比、分子量などの予測を検証しています。計算から得た化学的特徴と、実験で得た結果を結び付ける研究です。[24]

学べるのは、材料の特徴をどう数値にするかが、MIの重要な技術になることです。 同じ高分子でも、構成するモノマー、重合反応、実験条件をどう表すかによって、モデルが使える情報は変わります。材料固有の知識を入力データへ組み込む考え方は、他の材料系にも応用できます。実務上の整理は、材料開発における特徴量設計で解説しています。

11社の事例から見える、MI推進の3つの着眼点

ここからは、紹介した公開事例を踏まえた編集部の整理です。自社で取り入れる場面を考えやすいよう、活用の価値と推進の仕組みをつなげます。

材料の課題に合わせて、探索の方法を選ぶ

触媒の表面構造を調べる課題、複数性能を満たす樹脂を探す課題、多成分の配合比率を決める課題では、必要なデータも計算方法も変わります。最初に「何を変え、何を測り、何を判断したいか」を一文で表すと、方法を選びやすくなります。

開発課題に応じた方法選択の目安(編集部整理)
開発課題 検討する方法 導入時に確認すること
組成・配合から物性を予測したい 実験データを使う回帰モデル 測定条件、材料の表現、予測する範囲
複数性能を満たす候補を探したい 逆解析・多目的探索 必須条件と改善したい性能の優先順位
実験前に原子・分子の振る舞いを調べたい 計算科学・機械学習ポテンシャル 扱える元素・構造・条件と実験との対応
多くの研究者へ活用を広げたい 共通アプリ・教育・専門家支援 利用者の作業手順、相談先、データ管理

ツールと教育を、実際の研究テーマにつなげる

RASIN、MI Bridge、IFX-Hub、実務型の教育プログラムという形の違いはあっても、研究者がデータを使って判断する場をつくる点に共通性があります。研修で例題を解いた後、自分の材料テーマで予測と実験の差を確かめる機会を用意すると、学んだ手法の使いどころが見えてきます。

専門家との分担も具体化します。材料担当者は目的・制約・測定条件を定め、解析担当者はデータ処理・モデル・検証を設計し、両者で次の実験を選びます。データやモデルの更新、アプリの保守を担当する役割まで決めると、継続利用を支えやすくなります。

成果は、研究開発のどの工程が変わったかで読む

計算に要する時間、配合案を導出する時間、実験回数、要求性能を満たす候補数は、それぞれ異なる成果です。自社の目標にも、「候補選定から実験評価までの期間」「同じ予算内で評価できる候補数」など、対象工程を添えて設定すると、開発上の価値を共有しやすくなります。

事例の読み方:企業発表の成果は、その対象テーマ・条件での報告として扱っています。実証結果、運用開始、共同研究開始、今後の目標は、本文中でそれぞれの段階を記しました。公開資料の内容は発表時点のものを含み、費用・検証条件・導入範囲などの開示量は企業ごとに異なります。

自社で始めるためのチェックリスト

まず、開発の判断を一つ選び、小さな検証で効果を確かめます。テーマ選定の詳しい基準は、MIプロジェクトのテーマ選定方法を参考にしてください。

  1. 目的を一文にする: どの材料の、どの性能を、どの条件の範囲で改善するかを記す。
  2. 使えるデータを点検する: 組成・構造・製造条件・測定結果に加え、単位や測定方法を確認する。
  3. 現在の判断と比較する: 研究者が普段選ぶ候補を基準に、MIで選ぶ候補の利点を評価する。
  4. 新しい実験で確かめる: 学習に使ったデータとは別の試料・条件で、予測と実測を比べる。
  5. 役割と記録をそろえる: データ、モデル、実験条件の版と、次の判断を行った理由を残す。
  6. 次の利用者へ渡す: 入出力の説明、使える範囲、相談先を用意し、他の研究者が試せる形にする。

たとえば「低い温度で処理でき、必要な強度を満たす複合材料を探す」という課題なら、温度と強度の目標、変更できる配合範囲、試作可能な候補数を先に定めます。これは編集部の仮想例です。条件をそろえて予測候補と従来候補を評価すれば、次の探索へ使える知見が得られます。

つまずきやすいのは、測定条件の違う数値を混ぜること、モデルの精度だけを目標にすること、研修と実務の間に利用機会が空くことです。それぞれ、測定条件の記録、対象工程の評価指標、研修直後の実務テーマと相談会を準備することで対処できます。

実験や製造へ移す段階では、予測の適用範囲と不確かさを確かめ、材料・工程の責任者が安全性や品質条件を確認します。計算上の候補、実験で確かめた候補、採用を判断した材料を分けて記録すると、研究開発の意思決定を追跡できます。

よくある質問

MIは大企業のような大量データがあってこそ始められるのでしょうか?

着手時には、対象を絞り、条件のそろったデータで検証する方法があります。材料の知識を特徴量に入れる、計算データを活用する、外部と共同研究するなど、課題に応じた選択肢もあります。最初のテーマでは、予測したい範囲と、実験で確かめられる範囲を近づけると進めやすくなります。

ノーコードのアプリがあれば、研究者は何を学べばよいですか?

目的変数と説明変数、学習用・検証用データの分け方、誤差の読み方、適用範囲を優先します。操作を簡単にする道具と、結果を材料として解釈する力を合わせて育てると、次の実験へ結び付けやすくなります。

内製と外部サービスはどう選べばよいですか?

自社特有のデータや手順に合わせたい部分、外部の専門技術を使いたい部分を整理します。比較する項目は、検証のしやすさ、データ管理、他システムとの接続、保守、利用者教育です。社内の課題設定力を持ちながら、必要な技術を外部と組み合わせる方法も有力です。

紹介企業の中で、どこが最も進んでいますか?

目的別に見ると参考になる企業が変わります。現場への展開なら積水化学・三菱ケミカルグループ・旭化成、計算を使う探索ならENEOS、性能両立や配合探索なら東レ・住友ゴム、実務型育成ならレゾナックなど、自社の課題に近い事例から読むと有益です。掲載順は連結売上高順です。

まとめ|材料の課題と、研究者が使える仕組みを一緒に設計する

日本の化学・素材メーカーでは、MIが触媒・樹脂・界面活性剤・ゴム・再生プラスチックなどへ広がっています。用途ごとの具体例に加え、共通アプリ、研究データ、教育、専門家との協働が、活用を支える仕組みとして見えてきます。

自社で取り入れる際は、「次にどの材料・条件を試すか」という判断から始めると、必要なデータと方法を選びやすくなります。材料の専門知識をデータと結び付け、実験で確かめ、得られた知見を次の研究者へ渡す。この流れを整えることが、MIを継続的な材料開発の力へ変えていきます。

参考文献・公式資料

各URLと掲載内容の確認日:2026年10月24日。企業ウェブページのうち発表日の表示がないものは確認日時点の掲載内容を参照しています。

  1. ENEOSホールディングス『2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)』2026年5月14日、p.1。決算短信(JPX掲載)。
  2. 三菱ケミカルグループ『2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)』2026年5月13日、p.1。公式PDF。
  3. 旭化成『2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)』2026年5月12日。公式PDF。
  4. 東レ『2026年3月期決算の概要と2027年3月期見通しについて』2026年5月13日、資料p.4。公式PDF。
  5. 住友化学『2026年3月期 連結決算概要』2026年5月14日。公式PDF。
  6. 花王『会社概要』2025年12月期連結売上高。公式ページ。
  7. 三井化学『2026年3月期 連結決算概要』2026年5月13日。公式PDF。
  8. レゾナック・ホールディングス『2025年12月期 連結決算要約・決算短信(IFRS)』2026年2月13日発表。公式PDF。
  9. 積水化学工業『2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)』2026年4月28日、p.1。公式PDF。
  10. 住友ゴム工業『ファクトブック』2025年12月期連結経営指標。公式ページ。
  11. JSR『早わかりJSR』2025年度(2026年3月期)実績。公式ページ。
  12. ENEOS『MIを活用した新素材開発』。公式研究紹介。
  13. 三菱ケミカルグループ『顧客へのソリューション提案を加速する独自のデータ活用アプリケーション「MI Bridge」を開発』2023年9月25日。公式発表。
  14. 旭化成『ソリューション・事例』MI・スマートラボ。公式ページ。
  15. 東レ『難燃性と力学特性を両立するCFRPを短期間で開発―マテリアルズ・インフォマティクスを活用―』2021年11月30日。公式発表。
  16. 住友化学『DX戦略説明会』2024年3月12日、資料pp.7–8、20。公式PDF。
  17. 花王『データサイエンスによる材料・処方開発』。公式研究紹介。
  18. 三井化学・萩原工業・丸喜産業・NEC『MIの技術を活用し、再生プラスチックの品質安定化と製造工程の大幅な効率化に向けて協業を開始』2025年10月7日。公式発表。
  19. Enthought, “Resonac Expands Adoption of Enthought’s Materials Informatics Acceleration Program,” 2024年8月20日。協業先の公式発表。
  20. Resonac, “Resonac Forms Strategic Partnership with Matmerize in Materials Informatics,” 2023年9月22日。公式発表。
  21. 積水化学工業『材料開発でのMI活用推進に向け、独自アプリ「RASIN」の正式運用を開始』2024年12月20日。公式発表。
  22. 積水化学工業『MIを活用した新規高分子系材料探索を、明治大学 金子研究室と協働で開始』2022年8月29日。公式発表。
  23. 住友ゴム工業・NEC『世界で競争力のある研究開発基盤の構築に向け、戦略的パートナーシップ活動を加速』2025年11月26日。共同発表。
  24. Yoshimura, T. et al., “CopDDB: a descriptor database for copolymers and its applications to machine learning,” Digital Discovery, 2025, 4, 195–203. 初回オンライン公開:2024年11月28日。DOI:10.1039/D4DD00266K。
  25. Takamoto, S. et al., “Towards universal neural network potential for material discovery applicable to arbitrary combination of 45 elements,” Nature Communications, 2022, 13, 2991. DOI:10.1038/s41467-022-30687-9。

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