プロセスインフォマティクスとは?製造条件・品質・時系列データの解析

「同じ配合なのに品質が変わる」「ラボで良かった条件が量産設備では再現できない」「大量のセンサーログがあるのに改善につながらない」。こうした問題では、材料の組成だけでなく、加工・加熱・混合などの履歴と設備の状態を一緒に捉える必要があります。

プロセスインフォマティクス(PI)は、製造条件や工程データを統計解析・機械学習・工学モデルで扱い、品質予測、異常の発見、条件設計につなげるアプローチです。結論からいうと、最初に作るべきものは高度なAIではなく、「いつ、どの原料を、どの設備で、どう加工し、何を測ったか」が結び付くデータです。

この記事ではPIの考え方、マテリアルズ・インフォマティクスとの関係、公開事例、時系列データの扱い、導入手順と失敗例を説明します。以下の実務手順や仮想例は、引用資料を踏まえた編集部の整理であり、特定企業の導入実績や効果保証を示すものではありません。

プロセスインフォマティクスとは?MIとの違い

NIMSの2023年6月15日のDxMTセミナー案内では、プロセス設計やプロセス管理にデータと機械学習を使う研究開発をプロセスインフォマティクスとして紹介しています。[1]本記事では、原料、操作条件、時間的な工程履歴、設備状態と、品質・生産性の関係をモデル化し、意思決定に使う取り組みとして扱います。

MIが「どの材料・組成・構造が望ましい特性を持つか」を主な入口にするのに対し、PIの入口は「どう作れば、その特性を再現できるか」です。ただし境界は明確に分かれません。原料の組成と加熱条件を同時に扱う研究は、両者にまたがります。呼び方よりも、予測対象と改善したい判断を明確にすることが大切です。材料探索側の全体像は、マテリアルズ・インフォマティクスの基礎記事も参考になります。

対象は温度・圧力・流量だけではありません。原料ロット、粉体の粒度、水分、装置の形状、治具、清掃履歴、保全記録、工程中の画像・スペクトル、最終検査も含みます。設定値と実測値は別の情報です。炉の設定温度が同じでも、試料内部の温度や到達までの時間が同じとは限りません。

またPIは、機械学習を使うこと自体を意味しません。管理図、回帰分析、実験計画法、物質収支や熱収支のモデルで解決できる課題もあります。既存の方法で判断できるなら、それを比較基準として残す方が、複雑なモデルを追加する意味を評価しやすくなります。

PIでできること:予測・監視・設計・制御

品質予測とソフトセンサー

ソフトセンサーは、直接測りにくい量を、測定できる信号とモデルから推定する仕組みです。例えば工程中の温度やスペクトルから、後で測定する水分や濃度を推定する設計が考えられます。これは仮想的な利用例であり、対象ごとの検証が必要です。推定値は実測値と区別し、測定方法・誤差・モデルの適用範囲を表示します。

予測する時点も決めます。工程終了後に品質を説明するモデルと、開始後10分で残りの工程を判断するモデルでは、使える情報が異なります。後者に終了時のセンサー値を与えると、実運用では取得できない情報を使った見かけの高精度になります。

異常検知と原因調査

NISTの統計ハンドブックは、品質の継続的な監視に使う単変量・多変量管理図を説明しています。[2]PIでも、まず単一信号の逸脱や変化を可視化し、その後に複数信号の組合せを検討できます。異常スコアは「通常と異なる」という情報であり、不良の確定や原因の特定を自動的に意味しません。

工程の立ち上げ、停止、品種切替では通常運転とは違う波形が出ます。それらを一つの正常分布に押し込むと、警報が増える可能性があります。運転モードを分け、警報後に誰がどの記録を確認するかまで設計します。監視モデルが現場の判断に役立たなければ、検出性能が高くても運用は続きません。

条件設計とプロセス制御

条件設計は、品質やコストの目標を満たす操作条件を選ぶ仕事です。一方、制御は運転中の変化を見ながら操作を調整します。条件提案のモデルが高精度でも、制御に必要な応答速度、安定性、故障時の挙動まで保証されるわけではありません。初期導入では人への提案から始め、設備へ自動書込みする段階は別に検証します。

複数の条件を変えて検証する際は、過去ログの相関だけに頼らず、実験計画法などで確認する方法があります。目的に応じた探索の考え方は、実験計画法とベイズ最適化の使い分けに整理しています。

公開資料から見る多様な事例

金属3D造形:工程履歴と組織・変形をつなぐ

NISTのAM Bench 2025では、金属積層造形に関する温度履歴、残留ひずみ、基板変形、溶融池の形状などの予測課題が示されています。レーザー出力・走行速度を変える課題や、Fe-Cr-Ni合金の組成に応じた相変態の順序を扱う課題もあります。[3]

この公開例からは、材料名や平均出力だけでなく、時間・位置・熱履歴を結び付ける重要性が読み取れます。ただしAM Benchはモデル検証用のベンチマークであり、特定のAIが量産不良を削減したという導入実績ではありません。研究データでの一致と、別設備での運用性能は分けて評価します。

医薬品:工程理解と分析モデルの検証

FDAのPATガイダンスは、工程中の適時の測定と工程理解を通じて、製造の設計・分析・管理を進める枠組みを示しています。[4]また2021年8月の近赤外分析に関するガイダンスは、ケモメトリクスモデルを用いるNIR分析法の開発・検証・利用を扱っています。[5]

ここで参考にしたいのは、センサーを設置すれば品質を保証できるという考えではなく、分析法と工程の理解を一緒に検証する姿勢です。例えばスペクトルと品質の対応を調べる際は、試料の状態や測定器の差まで確認する必要があります。この例は工程分析の考え方を説明するもので、医薬品の出荷判断を汎用AIで代替できるという意味ではありません。

磁性材料:組成だけでなく作製プロセスも対象にする

NIMSの公式広報は、高性能バルク磁石などの研究でデータ科学を利用し、作製プロセスの最適化にプロセスインフォマティクスを適用していると紹介しています。[6]材料の性能を改善する際に、組成探索と作製条件の検討をつなぐ公開例です。

この記事から特定の改善率や最適条件までは判断できません。実務に展開するなら、自分たちの工程に必要なデータを定義し、材料と作製条件のどちらの影響を確認したいのかを分けます。公開事例は着想の参考とし、自社設備への再現性は別途検証します。

バッチ工程:平均値では消える波形を扱う

NomikosとMacGregorの原著論文は、過去の良好なバッチの多変量軌跡を多方向主成分分析で低次元化し、新しいバッチの進行を監視する方法を示しています。検討例はスチレン・ブタジエンラテックスの半回分反応器のシミュレーションです。[7]実工場での改善成果と取り違えないことが重要です。

この研究は、バッチ全体の平均値だけでなく、工程の進行に沿った変化を情報として扱う入口になります。例えば同じ平均温度でも、序盤に過熱した波形と終盤に上昇した波形は異なります。ただし波形解析でも、工程時間のずれや未知の原料変更を無条件に吸収できるわけではありません。

製造データを解析する前にそろえる情報

ロットと時刻を結ぶ

データの基本単位を決めます。1行が一つのバッチなのか、1秒の測定なのか、一つの製品なのかが曖昧だと、品質との対応も曖昧になります。原料ロット、製造バッチ、試料、検査結果には識別子を付け、途中で分割・混合した場合は親子関係を記録します。時刻が近いという理由だけで品質を結合しないようにします。

連続工程では、投入した原料が下流の測定点に届くまで遅れがあります。流量変更で滞留時間が変わる工程なら、固定の時間差で結合するだけでは不十分なことがあります。工程図と物の流れを確認し、予測対象に対応する信号の範囲を決めます。対応に不確かさが残る場合は、その程度と影響を記録します。

設定値・実測値・変更履歴を分ける

温度の設定値、温度計の実測値、設定を変更したイベントは別々に保存します。装置名、センサーの位置、単位、測定周期、校正履歴も必要です。「圧力」のような短い項目名だけでは、どこで測った何の圧力かを後から判断できません。データ辞書に意味と取得方法を記載します。

清掃、保全、部品交換、原料供給元の変更も品質変動の手掛かりになります。担当者名をそのままモデルに入力するより、操作手順やイベントを記録する方が、改善可能な説明につながりやすくなります。個人情報や業務上の機密を含む記録は、利用目的と権限を決めて扱います。

欠損と測定誤差を工程の文脈で扱う

停止中の欠損、通信断、測定範囲外、未検査は、同じ空欄でも意味が違います。欠損理由を残し、長い欠測を補間したデータを実測として扱わないようにします。異常な値を削除する前に、本当にセンサー故障なのか、工程異常そのものなのかを確認します。一般的な整理手順は、材料データの品質を高める方法も参照してください。

時系列データの特徴量と検証の考え方

最初は工程を意味のある区間に分け、各区間の平均、最大、変動幅、上昇速度、一定範囲にいた時間などを候補にします。仮想例として焼成工程なら、昇温、保持、冷却を分けた温度履歴が考えられます。どの特徴量が必要かは、製品・設備・仮説によって変わります。

測定周期が違う信号をそろえる際は、短い異常を平均化して消さないかを確認します。一方で、必要以上に細かい周期で保存しても、独立した情報が増えるとは限りません。装置の応答と改善したい現象の時間尺度に合わせて集約します。前処理後の波形を工程担当者と一緒に見て、物理的に不自然な変化がないか確認します。

最も避けたいのは、同じバッチの隣り合う時刻をランダムに学習用と評価用へ分けることです。よく似た状態を両方に含めると、未知のバッチに対する性能を過大評価しやすくなります。通常はバッチをまとめて分け、将来の運用を想定するなら過去で学習し、後の期間で評価します。設備移管が目的なら、設備をまたぐ評価も必要です。

補完、標準化、特徴量選択は学習側で決め、評価データにはその処理を適用します。工程中の予測なら、特徴量を計算する窓に未来の信号が入っていないかも確認します。終点品質を予測するのに、終点検査の結果やそれに基づく処置記録を使うと、データリークになります。

評価指標は目的に合わせます。品質の回帰なら平均誤差だけでなく、規格付近の誤差や大きな外れを確認します。異常検知なら見逃し、誤警報、検出までの時間、警報対応の負荷が重要です。時系列の測定点が大量にあっても、独立した原料ロットやバッチが少なければ、未知条件の評価は限定されます。

導入手順:一つの判断を改善するところから始める

1.現場の判断と成果指標を決める

「不良を減らす」だけでは対象が広すぎます。「焼成後の密度不足を工程中に予測し、追加検査の要否を判断する」のように、対象品質、判断時点、利用者、取れる行動を一文にします。これは導入設計を示す仮想例です。実際には、誤判断したときの影響と判断を保留する条件も決めます。

成果指標は、モデル誤差と業務成果を分けます。予測誤差が減っても、警報が遅くて行動できなければ損失は減りません。検査待ち時間、廃棄量、再加工、担当者の対応時間などを候補とし、改善前の値と比較方法を事前に決めます。

2.工程図とデータ対応表を作る

現場担当、品質担当、解析担当で、物の流れとデータの流れを一枚の工程図にします。各測定の対象、時刻、識別子、欠損理由を確認し、予測時点に取得可能な情報だけを候補にします。モデルを試す前に、代表的な良品・不良品の記録が正しく追跡できるかを手作業で確認します。

3.単純な方法を比較基準にする

現行ルール、管理図、線形回帰などを基準にします。その後、非線形モデルや波形モデルを追加し、同じ評価データと業務条件で比べます。単純な方法と性能が近いなら、保守の容易さや説明のしやすさも選択理由になります。最初から最も複雑な方式に固定する必要はありません。

4.新しいバッチで前向きに検証する

過去データで調整したモデルを固定し、新たに製造するバッチで性能を確認します。最初は設備を操作せず、予測と実測を記録する運用が適しています。製品群、原料、設備、期間ごとの誤差を確認し、平均値だけで合否を決めないようにします。比較期間の条件が違うなら、効果をAIだけに帰属させないことも必要です。

5.責任者と停止条件を決めて運用する

誰が警報を確認し、誰が操作変更を承認し、誰がモデルを更新するかを明確にします。入力欠損、未知の品種、校正期限切れ、応答遅延、性能悪化などでは、予測を保留して既存手順へ戻す設計が必要です。運用全体の整理は、研究開発DXの進め方・KPIにもつながります。

失敗例と技術的限界

失敗例の一つは、全品種を一つのモデルで扱い、少数品種の誤差を見落とすことです。平均精度が良くても、利用対象ごとの性能が不十分なら運用範囲を限定します。別の失敗は、異常スコアが高いときに対応手順がなく、警報を無視する習慣ができることです。検出対象と確認方法を先に設計します。

原料変更や部品交換で入力の分布が変わる現象をデータドリフトと呼びます。入力だけでなく、予測と品質の関係自体も変化し得ます。新しいデータを無条件で追加学習すると、不良状態や記録誤りまで取り込む可能性があります。更新は版管理し、独立した検証と承認を経て行います。

ラボから量産への移行では、混合、熱移動、滞留時間、測定位置などが変わります。設定値が同じでも、材料が経験する状態は同じとは限りません。ラボのモデルをそのまま当てはめるより、両設備の状態を対応付ける測定と、量産条件での追加検証が必要です。データがない領域の予測には保留や確認実験を組み込みます。

相関から因果関係を断定しないことも重要です。難しい原料に対して作業者が温度を高く調整していた場合、過去ログでは高温と不良が結び付いて見える可能性があります。「温度を下げれば改善する」とは限りません。操業判断の背景を確認し、安全な範囲の実験や工学的検討で、操作変更の効果を確かめます。

モデルには、測定誤差、標本の偏り、未観測の状態による不確かさが残ります。予測区間を示す場合も、その算出条件と検証結果を説明します。管理限界、製品の規格限界、モデルの予測区間は意味が異なり、相互に置き換えられません。工程が統計的に安定していることと、製品が規格を満たすことも別の判断です。

品質の最終判定、設備安全、出荷承認の責任は、モデルを導入してもなくなりません。操作提案、監視、出荷判断、自動制御のどこまでを担うかを明記し、既存の安全機能をAIの判断から独立して維持します。特に規制対象製品では、適用される要件と社内品質手順に従い、必要な専門部署が検証します。

導入前チェックリスト

次の項目に答えられない場合は、モデルの高度化よりも工程とデータの整理を優先してください。全部を満たせば成功するという保証ではなく、実証の前提を確認するためのリストです。

  • 対象品質、予測する時点、利用者、予測後の行動が決まっている。
  • 原料・バッチ・検査結果を識別子で追跡できる。
  • 設定値、実測値、測定位置、単位、校正履歴を区別できる。
  • 時間遅れ、工程段階、停止・切替・欠損の意味を確認した。
  • 学習と評価をバッチや時間で分け、未来情報の混入を確認した。
  • 既存ルールと比較し、誤警報・見逃し・対応時間を評価する。
  • 未知条件、入力異常、性能悪化時の保留・停止条件がある。
  • 操作承認、更新、品質判断の責任者と復帰手順を定めた。

FAQ:よくある疑問

データは何件あれば始められますか?

一律の最低件数は決められません。信号の行数より、独立したバッチ、原料、設備状態、品質変動をどれだけ含むかが重要です。少数バッチでも可視化や測定系の確認は始められますが、広い運用範囲に対する精度保証とは分けて考えます。

時系列には必ず深層学習を使いますか?

必須ではありません。工程別に集約した特徴量と単純な回帰が有効な場合もあります。波形モデルを使うなら、追加された複雑さに見合う改善を、未知のバッチで確認します。比較基準と実運用の計算時間も残します。

不良品のデータが少なくても異常検知できますか?

通常状態からの逸脱を検出する方法は検討できます。ただし逸脱と不良は同じではなく、未知の不良をすべて検出できる保証もありません。現場の確認記録を集め、対象とする異常について見逃しと誤警報を評価します。

良い予測モデルができたら自動制御できますか?

そのまま移行はできません。予測精度に加えて、操作の遅れ、変動時の挙動、安全範囲、故障時の復帰を検証する必要があります。最初は担当者への提案に限定し、自動制御は設備・制御の専門担当を含めた別の検証段階として扱います。

まとめ

PIは、製造条件と時間的な工程履歴を品質に結び付け、現場の判断を改善する方法です。組成だけでなく、設備、原料、測定方法、工程中の状態まで追跡することで、材料開発と製造の間にある再現性の問題を検討できます。

まず一つの判断を選び、識別子と時刻の対応を確認し、単純な比較基準を作ってください。そのうえで新しいバッチで検証し、適用範囲と停止条件を明確にします。高精度な予測を作ることと、安全に継続利用できる仕組みを作ることは、どちらも必要な仕事です。

参考文献

[1]NIMS. 2023年度 DxMT人材育成セミナー(第2回):実験科学者が実践する機械学習モデルの逆解析による分子・材料・プロセス設計. 開催日2023年6月15日. 公式案内。

[2]NIST/SEMATECH. e-Handbook of Statistical Methods, 6.3.1 What are Control Charts? 本文。

[3]NIST. AM Bench 2025 Measurements and Challenge Problems. 2025年のベンチマーク課題(各資料の更新日は公式ページ参照). 公式資料。

[4]FDA. PAT — A Framework for Innovative Pharmaceutical Development, Manufacturing, and Quality Assurance: Guidance for Industry. 文書表紙:September 2004(公式掲載ページ:October 2004). PDF。

[5]FDA. Development and Submission of Near Infrared Analytical Procedures. Guidance for Industry. August 2021. 公式資料。

[6]NIMS NOW. グリーンイノベーションを導くバルク磁性材料を. 2024年2月9日掲載. 公式記事。

[7]Nomikos, P.; MacGregor, J. F. Monitoring batch processes using multiway principal component analysis. AIChE Journal, 1994, 40(8), 1361–1375. DOI: 10.1002/aic.690400809. 著者所属大学の書誌・抄録。

参考資料確認日:2026年10月5日。公開資料の説明と編集部の実務上の提案を区別して記載しています。

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