著者:R&D Compass編集部|資料確認日:2026年10月24日
この記事で学べること
- MIの成果が、費用削減・製品性能・開発スピード・サービス化へつながる経路
- 化学・素材メーカー6社の公表事例で、どの工程が変わり、何が実現したか
- 研究時間の余力、現金支出の削減、製品化の前倒しを整理する方法
- 初期費用と運用費を含めた簡単な計算例、自社で使える評価指標とチェックリスト
MIで予測精度が上がった。実験回数が減った。こうした成果を得たとき、次に考えたいのが「その変化によって、事業は何を得られるか」です。候補選定が速くなれば、研究者は別の候補の検証へ時間を使えます。複数の要求性能を満たす材料を開発できれば、顧客への提案の幅が広がります。
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、材料のデータと統計・機械学習などを組み合わせ、材料の理解・設計・探索を進める取り組みです。本記事は、日本の化学・素材メーカー6社を取り上げ、技術上の成果が事業価値へつながる過程を読み解きます。
各社の幅広い取り組みは、日本の化学・素材メーカーのMI活用事例11選にまとめています。今回は、開発業務の変化と、成果を測る方法に焦点を当てます。
1.MIが生む事業価値には、どんな種類があるか
事業貢献を考える入口は、予測モデルの性能を、研究開発の行動へ翻訳することです。「性能を予測できる」から「試す候補を選べる」へ進み、その結果、使う費用、得られる製品、提案の時期がどう変わるかを整理します。
| 貢献の種類 | 研究開発で起こる変化 | 事業で確かめる指標 |
|---|---|---|
| 開発費用の削減 | 同じ目標へ到達するための試作・測定が減る | 材料・消耗品・外部試験などの支出 |
| 開発期間の短縮 | 意思決定や実験の待ち時間が減る | 目標性能への到達日、顧客評価への提出日 |
| 製品性能・品質の向上 | 複数性能を満たす配合や、安定した条件を探せる | 顧客要求の達成、歩留まり、採用、限界利益 |
| 新製品・サービスの創出 | 材料や解析技術を販売可能な形にする | 発売・契約・継続利用・売上・収益性 |
限界利益は、売上から、その販売に伴って増える変動費を引いた金額です。新製品の価値を考える際には、販売数量や単価に加え、材料費・製造費などを合わせて検討します。研究段階では、到達した性能や顧客評価の進捗を中間指標として持ち、販売後に収益指標へつなげると、長い開発も追跡しやすくなります。
同じ実験回数の削減でも、二つの使い道があります。一つは、材料費や外部試験費を減らすこと。もう一つは、空いた研究時間・設備枠で、別の候補を評価することです。どちらを目的とするかを先に決めると、効果を測る指標が明確になります。
2.企業事例から、事業貢献が生まれる仕組みを読む
掲載順は、上記の11社比較記事と同じ連結売上高順です。3月決算企業は2026年3月期、12月決算企業は2025年12月期を基準としています。以下では企業が公表した成果を示し、「事業価値への接点」で編集部の考察を加えます。
ENEOS|材料探索の高速化と、計算技術のサービス化
公表された成果:ENEOSは、Preferred Networksと共同開発した汎用原子レベルシミュレータ「Matlantis」を用い、触媒などを探索しています。メタノール合成触媒では、従来のシミュレーションで数年かかる計算を数週間で完了し、提案触媒の性能を実験で確認したと紹介しています。短縮の対象は候補を調べる計算です。[1]
原子の構造からエネルギーや力を推定する機械学習ポテンシャルを使うことで、材料の振る舞いを効率よく計算する考え方です。コア技術の原著論文は2022年に公表されています。[2] また、共同で設立した会社を通じ、2021年からMatlantisをクラウドサービスとして外部へ提供しています。[1]
事業価値への接点:自社研究では、調べられる候補を増やし、有望な材料を実験へ渡せます。外部提供では、自社で培った計算技術を、他社が利用できるサービスへ変えています。「研究開発を支える技術」と「販売するサービス」という二つの貢献経路が見える事例です。
自社で測るなら:計算費と候補選定期間、実験へ進めた候補の達成率を記録します。サービス化を目指す場合は、導入社数、継続利用、提供・サポート費用を含む収益性を追います。
東レ|要求性能を両立し、顧客へ提案できる材料を増やす
公表された成果:東レは2021年11月30日、MIによって難燃性と力学特性を両立する航空機用途向けCFRPを短期間で開発したと発表しました。CFRPは炭素繊維強化プラスチックで、炭素繊維を固めるマトリックス樹脂の設計が性能に影響します。[3]
東北大学との共同研究で導入した自己組織化マップを逆問題解析に用い、狙う特性を実現する組み合わせを抽出。少ない実験回数で樹脂を設計し、CFRP中間基材であるプリプレグの開発へつなげています。[3]
事業価値への接点:顧客が材料を選ぶ際には、複数の要求を同時に満たすことが重要です。難燃性と力学特性を合わせて設計できれば、提案可能な材料の範囲が広がります。ここでは「同じ材料を安く開発する効果」に加え、「要求を満たす新しい候補をつくる価値」に注目できます。
自社で測るなら:所定の性能・加工性を満たした候補数、顧客評価へ進んだ件数、採用までの期間を追います。開発成果から顧客の採用へ進む過程を記録すると、性能向上と事業貢献の関係を説明しやすくなります。
住友化学|仮想スクリーニングで、実験の配分を変える
公表された成果:住友化学の2024年3月12日のDX戦略説明資料は、MIを活用した半導体材料の仮想スクリーニングを紹介しています。資料p.20では、同事例について開発期間を10分の1に短縮したと示しています。[4]
仮想スクリーニングは、多数の候補を計算機上で評価し、実験対象を絞る方法です。候補を広く調べる計算と、実物で特性を確かめる実験を分担させ、実験の一回当たりの情報価値を高める方向です。
事業価値への接点:実験へ渡す候補の質が上がれば、材料・設備・研究者の時間を目標達成へ集中できます。顧客が評価を始める時期に候補を提出できることも、開発部門が重視する価値です。個別事例の期間短縮率を読む際は、候補探索からどの到達点までを測ったかを確認すると、自社の工程と比較しやすくなります。
自社で測るなら:目標性能へ到達するまでの実験回数・期間・費用を、同程度の難易度のテーマと比較します。探索の出発点と終了条件をそろえることが、納得できる評価につながります。
三井化学|品質安定化と工程短縮を、製造現場の価値へつなぐ
公表された進捗:三井化学、萩原工業、丸喜産業、NECは2025年10月7日、MIによる再生プラスチックの品質安定化と製造工程の効率化に向けた協業を発表しました。原料の量や質が変わる中で、粘度を測りながら投入する材料を調整する仕組みを目指しています。[5]
関連する粘度均一化装置については、萩原工業が技術ライセンスを受け、2025年10月から製造・販売を開始すると発表しています。[6] その装置と工場データを用いるMI協業では、混合工程を省き、製造全体の所要時間を25%削減する目標を掲げています。装置の販売開始と、MIによる工程改善の実証という、段階の異なる進捗です。[5]
事業価値への接点:品質の安定は、用途の拡大、再処理の削減、納入品質への信頼につながり得ます。工程短縮は、同じ設備で生産できる量や、人が対応する作業にも影響します。この事例は、材料の予測を、原料の変動へ対応する製造技術と結び付ける方向を示しています。
自社で測るなら:規格内品の割合、再処理量、ロット当たりの時間、設備の実稼働、生産量当たりの費用を追います。生産能力の増加を販売へつなげるには、需要と前後工程の余力も合わせて確認します。
積水化学工業|個別テーマの成果を、複数領域へ広げる
公表された成果:積水化学工業は2024年12月20日、MIアプリ「RASIN」の正式運用開始を発表しました。フィルム・複合材料・触媒などでMIを活用し、市場展開された製品も数多くあると説明しています。[7]
RASINは、専門部署が蓄積した解析ノウハウを集約した完全内製のノーコードアプリです。研究者向け教育、解析結果や改善方法を専門家へ相談できる体制を組み合わせ、研究開発者自身の活用を支えています。[7]
事業価値への接点:一つのテーマで得た解析手法を他のテーマへ展開できると、次のテーマの立ち上げを速められます。研究者が自分で試す部分と、専門家が支援する部分を組み合わせることで、多様な開発課題へ対応する道も広がります。
自社で測るなら:利用者数に、テーマの進捗を組み合わせます。解析を始めたテーマ、実験検証へ進んだテーマ、顧客評価・製品化へ進んだテーマを対応付け、立ち上げ期間と支援工数も記録します。共通基盤への投資は、複数テーマで得られた効果を集計すると評価しやすくなります。
住友ゴム工業|配合案を早く出し、検証と判断へ時間を使う
公表された成果:住友ゴム工業とNECは2025年11月26日、タイヤ材料の配合予測に関する先行実証を報告しました。過去の実験データから素材・配合量と特性の関係を分析し、疑似量子アニーリング技術で多様な組み合わせを探索しています。[8]
実証では、目標とする特性項目の90%以上を満たす配合案を導出し、非熟練者が同等の配合案を導出する際の時間と比較して、約95%短縮できたとしています。数字が表すのは、配合案の導出に関する成果です。[8]
事業価値への接点:配合案を早く用意できれば、実験での確認や、性能のバランスを議論する時間へ研究資源を回せます。また、熟練者の考え方をデータと結び付け、より多くの担当者が候補を検討する体制にもつながります。
自社で測るなら:案を出す時間に加え、試作後に要求を満たす割合、作り直しの回数、顧客評価へ進めるまでの日数を追います。候補案の作成から実験・採用までを一つの記録でつなぐと、速さがどの成果へ結び付いたかが見えます。
| 企業 | 主な対象 | 公開資料で示す成果・進捗 | 事業価値への接点(編集部整理) |
|---|---|---|---|
| ENEOS | 計算・材料探索/サービス | 計算の高速化、実験確認、外部サービス提供[1] | 探索範囲・研究効率・技術のサービス化 |
| 東レ | 樹脂・CFRP設計 | 性能両立とプリプレグ開発[3] | 要求性能を満たす提案材料の創出 |
| 住友化学 | 半導体材料探索 | 対象事例の開発期間短縮[4] | 開発資源の集中・提案時期の前倒し |
| 三井化学 | 再生樹脂の品質・工程 | MI協業で工程時間削減を目標に実証[5] | 品質安定・省力化・製造能力 |
| 積水化学 | 複数材料領域 | 製品へのMI活用、共通アプリ運用[7] | 成果の横展開・テーマの立ち上げ効率 |
| 住友ゴム | 材料配合案の導出 | 特性要件の充足と導出時間短縮の実証[8] | 検証機会・開発判断の迅速化 |
資料の読み方:企業事例は公表された対象・比較条件・到達段階に沿って記載しています。各社のMIに由来する売上・利益の開示範囲は異なるため、ここでは成果と事業価値への経路を比較します。以降の数値例はすべて、考え方を説明する編集部の仮想例です。
3.実験や計算が速くなると、事業には何が起きるか
開発全体の期間は、工程のつながりから考える
工程短縮の価値を見るには、依存関係を描くのが近道です。候補選定が終わってから試作し、評価後に顧客認定へ進む開発を考えます。以下は、各工程を順番に進める仮想例です。
| 進め方 | 候補選定 | 試作 | 評価 | 顧客認定 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 従来 | 4 | 4 | 4 | 8 | 20 |
| MI活用 | 1 | 4 | 4 | 8 | 17 |
候補選定は75%短縮され、開発全体は3週、15%短縮されます。この3週を使って顧客の評価日程へ早く入れるなら、提案機会の拡大につながります。一方、並行して進む別の準備が8週必要なら、候補選定の4週が1週になっても、両方がそろう時期は8週です。待ち合わせがある場合は、最も長い経路を確認します。
この最長の経路をクリティカルパスと呼びます。MIの対象を選ぶときに、手戻りや待ち時間も含めた工程図を一枚つくると、どこを速くすると顧客への提出が早まるかを議論できます。
時間の余力は、使い道まで決めると価値になる
研究者の作業が140時間減ったなら、次に試す候補の評価、顧客との条件調整、再現性の確認などに振り向けられます。設備も同様で、空いた測定枠を他テーマへ回せるなら、研究開発全体の処理能力が高まります。
評価票には「空いた時間」と「その時間で実施したこと」を対で記録します。予算上の支出削減は円、使える研究資源は時間・設備枠、開発成果は性能達成や顧客評価の進捗で示すと、貢献を具体的に説明できます。
品質と生産能力は、製造の制約と合わせて評価する
品質の改善は、材料の追加処理、廃棄、再測定、納入までの待ち時間を減らす経路があります。歩留まりは、投入や生産に対して、要求品質を満たす製品が得られる割合です。原料の条件をそろえた上で、規格内品の割合と一緒に費用を測ると、改善の意味が分かります。
仮に一つの処理工程が100分から75分へ短縮されれば、時間は25%減り、その工程だけの処理能力は約33%増えます。実際の生産量は、原料供給、前後工程、段取り、需要によって決まります。したがって、まず工程能力を測り、製品全体の生産量と販売実績へ順に接続します。
4.MIの費用対効果を、自社の数字で考える
直接費の削減と、初期費用・運用費を計算する
同じ性能目標へ到達する実験が年間200回から130回になると仮定します。1回当たりの材料・消耗品・外部試験の支出を2万円、MIの年間運用への追加支出を100万円、初期整備への追加支出を200万円とします。運用費はソフト、計算資源、外部支援などを想定しています。
実験単価の2万円には、通常の社員給与や設備の減価償却を含めていません。ここでは、実験を減らすことで実際に減る支出を数えます。MIを追加したことで増える実験や外注がある場合は、その費用も同じ表へ入れます。
| 項目 | 計算 | 金額・結果 |
|---|---|---|
| 従来の実験支出 | 200回 × 2万円 | 400万円/年 |
| MI活用後の実験支出 | 130回 × 2万円 | 260万円/年 |
| 実験支出の削減 | 70回 × 2万円 | 140万円/年 |
| 年間の差引効果 | 140万円 − 運用費100万円 | 40万円/年 |
| 初年度の差引効果 | 140万円 − 100万円 − 初期費用200万円 | −160万円 |
| 単純回収年数 | 初期費用200万円 ÷ 年間差引効果40万円 | 5年 |
単純回収年数は、同じ年間効果が続くと仮定し、初期支出を何年で回収するかを見る目安です。この例は初年度から通年稼働し、追加投資・効果の変化・税・割引率を省いた簡易計算です。本格的な投資判断では、立ち上げ期間、利用年数、更新費を含む年次の収支へ広げます。
実験1回の人の作業が2時間なら、70回で140時間の余力も生まれます。これは費用表とは別に「他テーマへ再配分できる時間」として記録します。外注や残業などの支出が実際に変わる場合には、その差額を確認して費用表へ反映します。
効果が変わった場合も並べてみる
削減回数は、テーマ数、材料の難しさ、研究者の利用状況で変わります。同じ費用条件で、年間40回・70回・100回の実験削減を比較してみます。
| 削減回数/年 | 実験支出の削減 | 運用費控除後/年 | 初期費用の単純回収 |
|---|---|---|---|
| 40回 | 80万円 | −20万円 | 追加の便益・費用改善を検討 |
| 70回 | 140万円 | 40万円 | 5年 |
| 100回 | 200万円 | 100万円 | 2年 |
この条件では、年間運用費を実験支出の削減で賄う回数は、100万円÷2万円=50回です。初期費用の回収は、その後の年間差引効果から考えます。こうした分岐点を用意すると、「何テーマに展開できればよいか」「どの作業を共通化すべきか」を具体的に議論できます。
製品性能や発売時期の価値は、別の前提で評価する
MIで顧客要求を満たす材料ができた場合は、想定販売数量、単価、変動費、採用の確度を事業部門と置きます。追加販売の価値を考える基本形は、「追加販売数量×単位限界利益−追加費用」です。通常の営業・製造・認定活動と合わせて、MIがどの判断を支援したかも記録します。
早期発売の価値は、顧客への供給を早めた期間に何が起こるかで変わります。評価期間全体で販売が純増する場合と、同じ販売が前倒しになる場合を分けてシナリオを置くと、利益増加と収入時期の変化を整理できます。費用削減、能力の余力、将来の販売効果を並べ、重複する効果は一度だけ数えます。
5.事業貢献につながるMIテーマの選び方
事業課題と、変えられる開発判断を対にする
「利益を増やす」という目標を、研究現場で動かせる問いへ変えます。たとえば「顧客への初回サンプル提出を早めるため、候補配合の選定を効率化する」「原料変動に対応し、規格内の品質へ調整する」なら、データと評価対象を具体化できます。
テーマ選定では、事業上の重要性、使えるデータ、実験での検証のしやすさを合わせます。詳しい進め方は、MIプロジェクトのテーマ選定方法を参照してください。
| 観点 | 確認する問い | 具体化する内容 |
|---|---|---|
| 事業課題との距離 | 誰のどの判断が改善するか | 顧客要求、納期、品質、開発予算との接点 |
| 変更可能性 | 予測後に何を変えられるか | 組成・配合・試作条件・候補の優先順位 |
| 検証の速さ | 実物で効果を確かめるまで何日か | 試料作製、測定、判定までの期間 |
| 展開先の広さ | 同じ仕組みをどこへ使えるか | 材料系、事業部、データ・手順の共通性 |
技術・開発・事業の3段階で成果をつなぐ
予測誤差や候補の的中率は、道具の性能を知る指標です。その次に、実験回数、目標への到達期間、顧客評価の進捗を置き、販売後の売上・限界利益・品質費用へつなげます。KPIは、こうした目標の進捗を測る指標を指します。
長期研究なら、仮説が検証できた段階、目標性能へ到達した段階、スケールアップの見通しが立った段階で、次へ進む判断を設定します。研究段階に合う中間成果を持つことで、必要な投資と開発リスクを継続して見直せます。研究開発全体の指標設計は、研究開発DXの進め方とKPIでも解説しています。
比較対象と、成果の帰属を最初に決める
着手前に、従来の方法で進めた場合の期間・費用・到達点を置きます。実施後は、材料の難易度、測定法、試作設備、担当者の経験なども併記します。可能なら同時期の類似テーマや、事前に定めた候補との比較を行い、条件差の影響を確認します。
製品の成果は、材料研究、解析、製造、営業などの共同作業から生まれます。共同の成果台帳を一つ設け、MIが支援した候補選定や条件設計を記録すると、貢献を説明しやすくなります。共通アプリやデータ整備の費用も、個別テーマの費用と全体集計の関係をそろえて管理します。
6.成果を継続して生むためのチェックリスト
- 事業との合意:開発責任者・事業側と、何が変われば価値があるかを一文で共有したか。
- 比較の基準:従来方法、対象工程、開始日・終了条件、目標性能を記録したか。
- 支出の確認:初期費用、運用費、追加の測定・実験費、実際に減る支出をそろえたか。
- 実験での検証:新しい候補を実測し、品質・再現性・使える条件を確認したか。
- 余力の配分:空いた時間と設備枠を、どのテーマへ使うか決めたか。
- 採用への接続:顧客評価、量産条件、供給能力、販売の見通しを確認したか。
- 継続・拡大の判断:更新費と次の適用先を踏まえ、維持・拡大・見直しの判断日を設定したか。
典型的なつまずきは、候補作成の速さだけを測り、後工程の待ち時間を残すことです。工程図で全体の制約を確認すれば、実験設備の予約や顧客評価の日程調整も改善対象にできます。また、モデルを更新するたびにデータ条件と性能を確認し、実験・製造へ移す際は品質・安全の責任者が使用条件を判断します。
7.よくある質問
予測精度が上がったことを、成果として報告してよいですか?
技術成果として報告できます。その上で、精度向上が候補選定、実験回数、品質判定のどの改善へつながったかを添えると、事業側も価値を把握しやすくなります。技術指標と開発指標を一つずつ持つのが始めやすい方法です。
製品化まで長い研究は、どう評価しますか?
段階に応じた到達点で評価します。性能の再現、加工性、量産条件、顧客評価など、次の投資判断に必要な情報を設定します。将来の収益は複数シナリオで置き、実験や顧客評価で得た情報を反映して更新します。
費用削減と売上貢献は、どちらを優先しますか?
テーマの事業目的に合わせます。成熟製品の品質・工程改善なら支出や歩留まり、新材料なら要求性能・採用・開発期間、技術サービスなら契約・継続利用・収益性が中心になります。共通するのは、改善する判断と測る工程を明確にすることです。
企業の短縮率を、自社の導入効果の見積もりに使えますか?
参考事例として、何を改善するかを考える際に使えます。自社の見積もりは、対象工程の現状時間、データの準備、試作・評価の条件から置き、小さな実証の実績で更新します。自社の条件に近い事例を選び、比較対象まで読むと参考になります。
まとめ|MIの成果を、研究開発の判断と事業の指標でつなぐ
企業事例を見ると、MIの貢献は多様です。探索を速めて実験の配分を変える、要求性能を満たす材料をつくる、品質を安定させる、技術をサービスへ変えるなど、対象によって価値の生まれ方が変わります。
自社では、改善したい判断を一つ選び、従来方法との比較、実験検証、費用と時間、顧客評価までを記録するところから始められます。技術成果、開発上の成果、事業の成果をつなぐことで、MIを次の投資や研究テーマの判断に使える取り組みへ育てられます。
参考文献・公式資料
確認日:2026年10月24日。企業事例は各発表時点の公表内容を参照しています。
- ENEOS『MIを活用した新素材開発』。公式研究紹介。Matlantisの外部提供開始:2021年。
- Takamoto, S. et al., “Towards universal neural network potential for material discovery applicable to arbitrary combination of 45 elements,” Nature Communications, 2022, 13, 2991. DOI:10.1038/s41467-022-30687-9。
- 東レ『難燃性と力学特性を両立するCFRPを短期間で開発―マテリアルズ・インフォマティクスを活用―』2021年11月30日。公式発表。
- 住友化学『DX戦略説明会』2024年3月12日、資料p.20(半導体材料の事例)。公式PDF。
- 三井化学・萩原工業・丸喜産業・NEC『マテリアルズ・インフォマティクスの技術を活用し、再生プラスチックの品質安定化と製造工程の大幅な効率化に向けて協業を開始』2025年10月7日。共同発表。
- 萩原工業『不均一なリサイクルプラスチックの粘度を均一化する技術のライセンス契約を三井化学と締結』2025年10月3日。公式発表。
- 積水化学工業『材料開発でのMI活用推進に向け、独自アプリ「RASIN」の正式運用を開始』2024年12月20日。公式発表。
- 住友ゴム工業・NEC『世界で競争力のある研究開発基盤の構築に向け、戦略的パートナーシップ活動を加速』2025年11月26日。共同発表。

